鼓動回数1万回。
冬の学校行事といえば、
「マラソン大会なんてダルすぎ…」
である。
ぐずる岳人の頭を軽くはたいて、跡部はストレッチを始めた。
「たった5キロじゃねぇか。どうってことないだろ?」
「景はそうかもしんないけど、俺にとっちゃ5キロは地獄なんだって…」
「テニス部の恥になるような順位だけはとるなよ」
だいたいいつもの持久力トレーニングを真面目にやらないお前が悪い。
きっぱり言い切られて、岳人はジト目で鬼部長の地面に腰を降ろすしぐさを追った。
脚を開いて伸ばしている背中は無防備だ。
音を立てないよう近づく。
あ、という顔をした滝に人差し指で「静かに!」の合図を送って、岳人は跡部の背中に体重をかけて座り込んだ。
「ぅ…っ!が、岳人!!!どけ!」
「随分身体が固いンんじゃございませんかぁ?いつもの柔軟トレーニングを真面目にやってないんじゃないの?ブチョー」
「はいはいそこまで〜」
滝がにしししと笑う岳人を、跡部の背中からやんわりとどける。
跡部が痛みで潤んだ眼で岳人を睨みつけようと振り向いたところで、どこかに行っていた宍戸が戻ってきた。
その後ろに、一人の男子生徒を引き連れて。
「景。お前にお客さん」
佐々木隼人。
氷帝学園2年、陸上部部長。
テストの学年順位はそこそこ良い方。
甘い顔立ちと高い背、優しい雰囲気で女子に人気の人物だ。
その佐々木が、やけに真剣な顔をして跡部の前に立った。
「跡部さん。おはよう」
「?おはよう」
同じ部長同士、面識もあるし話をしたことも結構あるので、跡部は怪訝に思いながらも挨拶を返す。
佐々木はさっと一瞬目を逸らした後、よりいっそうの熱を込めて跡部の目を覗いた。
ほっぺた赤くなってるぞ?っていうかなんかやけに近づいてないか?
詰め寄られた本人は相手の緊張をもらうでもなく、どこかのんびりとそう思っていた。
「跡部さん。俺…俺は、君のことがっ、好きだ!!」
「、え?」
唐突に告白して手を握ってきた佐々木に、跡部は目を見開いた。
周りでは女テニの面々はもちろん、近くに居た生徒たちまでもがびっくりした顔で二人を見ている。
「堂々とよくもまぁ…」
「忍足のみならず佐々木まで…女子の視線が痛い〜…」
「何にも知らずに連れてきたんだ?亮」
「……だってアイツ、おねだりする犬みたいな顔で頼んでくるから…」
「あーはいはい、亮は犬に弱いんだったねー。長太郎とか長太郎とか長太郎とか」
跡部のことはすっかり放置状態で、滝は宍戸遊びに突入したらしい。
岳人だけが、飛び抜けて美しくもそれと同じくらい一般女子より荒々しい友人の―――正確には、その友人に無謀にも告白した同級生の心配をしてた。
「それで、お願いがあるんだけど…」
「え?あ?お願い?」
「そう。お願い。今日のマラソン大会で俺が優勝したら、今度の日曜にデートしてほしい」
「デ、」
「その時に返事を聞かせてほしいんだ。付き合ってくれてもくれなくてもいいから…とにかく、一緒に出掛けてくれるだけでいいから」
なんて図々しい奴だ!!
こんな大勢の前でこの俺に告白したあげく、デートしてほしい、だと!?
身の程をわきまえろ!…いや、俺様に告白する権利があるくらいの人物だって知ってるけど…
ってそーじゃなくて!!そもそもコイツ優勝できる気でいんのかよ……ん?そういえば去年の一位は…こ、コイツだった…!!!
「ね?跡部さん…」
デカイ図体してそんな子犬みたいな目で見るんじゃねぇーー!!
似た者幼馴染。
跡部も宍戸同様、犬に弱かった。
「う…」
「いいよね?」
「うう…」
「あれ?珍しい。景の毒舌攻撃が出ない…」
遠巻きに様子を伺いながら、岳人は首を傾げた。
「殴る蹴るもしないし…」
「跡部はああゆうタイプには強く出られへんねやろ」
「あー、犬っころみたいなタイプね。………、って、侑士!!?」
いつの間に隣に来たのか、忍足が食えない笑みで跡部と佐々木を見ている。
「俺の知らんところでめっちゃおもろいこと起こっとるやん」
侑士の後ろに禍々しいオーラが見える…!!!
ヒィ!と小さく悲鳴を上げて、岳人は宍戸と滝にSOSの視線を送った。
「長太郎は絶対ゴールデンレトリバーだと思うんだよなぁ」
「でもさ、ちわわでもいけそうじゃない?目とかウルウル〜ってさ」
「わ、わかるかも…!」
コイツらじゃダメだ……っ!!
成す術もなく、少女はその場にくずおれた。
to be continued!
キリ番1300を踏んでくださった、木蓮さまからのリクエスト
「女体SS」
つ、続きものにしてしまった…!すみません(泣)
ネタからもおわかりかと思いますが、冬の間に更新しようと思ってたのに…
もう春ですよ涼河さん。何やってんですか涼河さん。
このウスノロめ!!
頑張ってサクサク更新します…
木蓮さま、お待たせしてしまって申し訳ありません!
2005.03.09 涼河