廻る廻る  加速度を上げて












鼓動回数万回。<後>
























「その賭け、俺も入れてくれへん?」

にっこり。

完璧な笑みで佐々木を見る忍足。
ビシビシと伝わってくる殺気にちょっと怯えながらも、佐々木は気丈に頷いた。

「いいよ。負ける気しないしね」

睨み合う両者の間で、火花が飛び散った。
それぞれの頭上には龍と虎が―――否、魔王サタンと子犬が浮かび上がっている。


「ちなみに、去年の忍足の順位は…?」
「確か30位前後じゃなかった?」

いつの間にか修羅場観戦に戻った宍戸と滝の呟きが聞こえたのだろう、
忍足が彼女達へゆっくりと振り向いた。

「タブン、32位やったデ。」

ニコニコ〜。

「ひぃーーー!!エロイムエッサイム・エロイムエッサイムーー!!」
「亮!意味もわからないまま呪文を使っちゃだめだってば!」
「そそそんなこと言ったって滝ィ〜!忍足に呪い殺される…」
「エロイムエッサイムは魔術なんだから、魔王の忍足に効く筈がないじゃないか!」
「それじゃあどうすれば!?」
「聖剣だよ…聖剣・エクスカリバーを探しに行くんだ!!」
「よし、それじゃあ早速旅に出よう、滝!」
「ああ、亮!」
「「俺達の、そして、世界の平和のために!!」」



「ってバカすぎなんだよお前らーー!!!!!」



岳人からのツッコミを受けている宍戸と滝はとりあえず無視して、跡部は忍足の名を呼んだ。

「俺の意志はどうなんだよ?」
「さっき頷きかけてたやん」
「……」
「それに」

声を潜めて寄ってきた忍足に、跡部も反射的に耳を貸す。

「ほんまに佐々木とデートすることになったら困るやろ?」

やから、俺が優勝したる。








「…あーもう。勝手にすればいいだろ…」



溜息をついて、跡部は俯いた。
くだらないことに大騒ぎする男共に呆れて、でもあるが、本当のところは―――
















「優勝してやる」

と言ったときの、忍足の表情が、とても真剣で。



だから。









溜息くらいじゃ、この熱は逃せられなかったけれど。
























女子の30分後に、男子がスタートする。
去年同様1位で競技場に戻ってきた跡部ときっちり10位に入賞した宍戸は、
ウィンドブレーカーを羽織ってアップをしている生徒達やら競技場の入り口やらに視線を移していた。



「お、きたきた」
「ま、去年よりはマシだな」
「素直に褒めてやれよ、景」



ちょうど岳人がゴールした時だった。
競技場に、放送の声がこだました。


『2年男子はスタート地点に集合してください』


















「位置についてーよーい……」


銃口が天を指す。







パァンッ!!!




戦いの幕開けは、高らかに。










応援のためコースの様々な場所に散らばっていく女子達。
岳人と滝もどこかへ歩いていった。
残った跡部と宍戸は、そのままトラックの内側で座り込んだ。
熱の収まり始めた身体に、冬の風は少々きつい。
上まできっちり閉めたウインドブレーカーに二人して口元を埋めて、
ボンヤリと白いラインの軌道を追う。

「…忍足、一番に帰ってくるかな」
「………」
「去年、32位だったんだろ…?相手はあの佐々木だしな」

喋るのにこの格好はちょっと不具合だ。
名残惜しかったが立てた襟から顔を離す。

風が一度、強く吹いた。
どこかからの歓声が、その流れに乗って届いてくるのを聞きながら、
宍戸はあまりの寒さに、顔を出さなければ良かったな、と後悔した。

「……るさ」
「え?」

違うことを考えていたせいで、聞き取れなかった。
跡部もいつの間にか、顎まで外気に曝している。

「帰ってくる。アイツは、一番早く。」

唖然と、宍戸は隣の幼馴染を見た。
揺らぐことを知らない眼差しは、真っ直ぐ競技場の入り口へと固定されている。

「お前さ…」

出かけた言葉は、溜息と共に飲み込んでおいた。

『結構忍足のコト、信頼してるよな』

なんて、言ったところでボロクソに否定されるだろうから。














ワッ!と、入り口のすぐ外で声が起こった。
跡部たちと同じようにトラックにいた生徒たちがラインの近くに並び始める。
観客席にいた者も、下まで降りてきている。
つられるようにして、二人も立ち上がった。
それとほぼ同時に―――

「あ、来た!」


入り口に、男子生徒が一人、姿を現した。

競技場の空気を最初に変えたのは、






「佐々木…」

悔しさに宍戸が唇を噛み締めていると、またひとつ、入り口で歓声が上がった。


「忍足!!」

瞬間、跡部は手を祈るように握り合わせて、小さく叫んだ。





















佐々木の背中の大きさは、さっきからずっと変わらない。
言うことを聞かない脚に、忍足は舌打ちをした。
前へ進もうと必死に動かしているのに、宙で空回ってる、そんな感じ。

佐々木の背中、が。

遠い

―――と、思ってはいけない。追いつけなくなる。
忍足は自分に言い聞かせ、越すべきものをひたと見据えた。
もう、競技場の入り口だ。
トラックへ足を踏み入れる。
大きな歓声。
そして忍足は、ふと顔を上げた。












名前を、呼ばれた気がした。















見つけたのは、鮮明なその姿。









『勝て』








唇が象る言葉を、見失うはずも、無い。















忍足は再び貌を前に戻した。
背中は、近い。

(イケる)

ペロリ、上唇を軽く一舐めして速度を上げる。
不思議と、ひきずるような重さは消えていた。







1位と2位の距離がぐんと縮んだ。
あちこちから両者の応援が飛び交う。


最後のコーナー。
横に現れた人影に、佐々木は動揺してしまった。

(ヤバイ。抜かれ…)



コーナーを曲がり終えたと同時、忍足がさらに速度を上げた。
すり抜けてゆく黒い髪と、鋭い目。








そして、ゴールテープは忍足侑士の胸へ飛び込んだ。











ゴールした途端座り込んでしまった忍足に、跡部は駆け寄った。

「忍足」

荒い息遣いのまま、顔を覗こうとする跡部を遮る。

「ハァーー……ハァ、ちょ、俺、今、かなり、ブサイクな顔、になっとるし…ハァ、見んといて…」

「何言ってんだよ」

顔はそれ以上見ようとはせずに、跡部はしゃがんでいた身体を起こした。

「今日のお前、かっこいい…し」

ぶっきらぼうな小さな声は、それでも、しっかりと忍足の耳に届いた。

「…おおきに。こんなに本気んなったの…久しぶりや」

何でも適当に手を抜いてしまう性格の所為で、真面目にマラソンなどした事が無かったけれど。

(動機は不純やけど…悪くない)

忍足は満足気に息をついた。
そろそろ脈拍も呼吸も落ち着いてきたころだ。








「やくそく」

「へ?」




「約束、ちゃんと守って、デート。してやるよ」






呆けて見上げれば、得意気で―――どこか照れたような笑顔。






静まりかけていた心臓が、いっそう大きく主張を始めた。






「…それって、腕組み・キス付き?」




「ばぁーか」









体中を震わせる この鼓動の原因は






きっと











君以外はありえない

















end












☆★オマケ★☆


宍戸:「佐々木のヤツ…完全に当て馬だな」
岳人:「だな。あれ?そーいえばジローは?」
 滝:「さっき向こうの木の下で寝てるのを見つけたよ〜」
宍戸:「アイツ…今年もビリ扱いだぞ…」



佐々木:「跡部さん…(泣)」

宍戸・岳人・滝:(((い、犬…!(キュン))))








佐々木の扱いがなんてひどいんだ(笑)
彼のイメージはGBの銀次くんですv(大好き!)
やっと終わりました。
長〜…;グダグダですね…
前半と後半で話の雰囲気が違いすぎだしなぁ。

スランプ続行中;;

木蓮さま、いかがでしょうか?
今回は涼河本人がこの作品に不満オオアリなんで(笑)、
仰ってくだされば書き直します!!
こんなんでよろしければ貰ってやってくださいませv

2005.03.23 涼河

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