メイデンズ・トーク
「あ。」
「あーん?」
見覚えのある…嫌というほど目に焼きついている顔に、橘杏はしばし固まった。
デパート内の、下着売り場。まさかこんなところでこの人物に会おうとは。
ぼーっと凝視していると、相手の視線が自分の腕の先をちらっと見遣ったので、杏ははっとして手を引っ込めた。
下着売り場で知り合いと偶然ばったり、というシチュエーションほど恥ずかしいものはない。
だって思春期まっさかりのお年頃なのだ。スリーサイズを悟られるなんて、とんでもない。
ましてや、それが自分よりプロポーションのいい人だったら尚更、だ。
杏は別段太っているわけでもない、というかスタイルのいい部類に入るのだが―――
対する人間は、あの跡部景吾。
見事な脚線美から細くくびれたウエストを辿って、思わず一歩後退る。
しかし、そこは橘杏。伊達に元九州2強の妹をやってはいない。
ガッと腰に手をあてて、杏はにっこり微笑んだ。
「跡部さん、こんにちは。練習試合以来ですね。それにしても…跡部さんでもこうゆうところに来たりするんですねぇ」
見られただろうか…
「どういう意味だ」
…み、見られてない!?
「金持ちの人って、なんでもかんでもオーダーメイドなイメージがあるので」
「…俺はそこまでこだわっちゃいねぇよ。今日はアイツらの引率」
跡部が顎で示す先に、氷帝の制服を着た女の子が二人いた。
どちらとも見たことがある―――女テニのレギュラーだ。
確認しながら、杏は内心安堵の息を吐いた。
見られてないみたい。
「ところで」
「はい?」
ニヤリ。
鮮やかに吊り上ってゆく唇が目の先に。
美人のニヤニヤ笑いなんて、間近で体験するもんじゃない。
むかつくことこの上ない。
「お前、Aカップってのはちょっとヤバイんじゃねぇの?」
見られてました。
「何がヤバイってゆーんですか!?まだ成長途中なんですよ!」
「どーだか」
「なっ…」
そう言う跡部さんだって!
続けようとした言葉は、
「ギャッ!」
跡部の短い悲鳴に遮られた。
「おいおい景、オンナノコなんだからさぁ〜もっと可愛い悲鳴を上げてくれよ〜」
跡部の脇の下から腕を出し、彼女の胸を鷲掴んだ犯人が背後で笑う。
跡部が頬を微かに染めて首を後ろに捻り、岳人!と叫んだ。
「そ・れ・に。お前だってこぉんな小さい胸しといて、人のこと言えないだろぉ?」
「バカ!揉むな!!」
「大きくなるよう手伝ってやってんだろ?あ、それともこれって彼氏にしてもらわないと効果ナシ?どうなの、亮」
「俺に訊くな」
「あ、あの…」
注目を集めてるんで、もう少し声を抑えてもらえませんか。
杏の遠慮がち(気圧された)な注意で、跡部は岳人をひっぺがした。
「大体な!胸ってのは大きけりゃいいってもんじゃねぇんだよ!!いいか、大事なのは形だ!!!」
ぴしゃーん。
効果音を背負って、人差し指を岳人に突きつける跡部。
頼もしい背中と発言に、杏が両手を合わせて目を輝かせた。
「ですよね!?」
「はっ!?」
驚いたのは宍戸だ。
さっきの注意はなんだったんだよ?
何、コイツも結局イっちゃってる娘なわけ?
「大きいばっかりで形が悪かったらかっこわるいですもんね!」
「当然だ!お前、ちゃんと自分に合ったブラしてんだろうな?気をつけないと形悪くなるぞ」
「はい、その辺はバッチリですよ。跡部さんも、さすがラインが綺麗ですね。制服の上からでもわかるくらい」
「良いメーカー紹介してやろうか?」
「わーほんとですかーv」
なんだこの和気藹々ムード。
「あと、あれも大事ですよね、ちくびのい―――」
「わーわーわー!!!」
「なんだよ、亮。大きい声出すなよ」
「いや、俺じゃなくて」
首を振る宍戸の肩越しに知り合いの顔を見つけて、杏が目を大きくした。
「アキラくん」
真っ赤な顔をした“アキラくん”は、ふーふーと肩で息をしている。
さっきの大声はこの少年らしい。
「何?橘の彼氏?」
「え、違いますよー!同じ学校の、男テニの神尾くんです」
「…明らかにショック受けてるぞ、アイツ」
溢れかえる華やかな下着。このフロアにいるだけでも恥ずかしいのに、
まさか下着たちの真っ只中にいる杏に近づけるわけもなく、少し遠いところから放たれた言葉の槍に心臓を一突きされて、
神尾ががっくりと項垂れる。
「あ、杏ちゃん……女の子がそんなハレンチなこと言っちゃだめだろぉ…」
「え、何?もしかして、ちく―――」
「わーわー!!!!だからー!!」
息も絶え絶えに、橘さんがそろそろ帰りましょうって、と神尾が言った。
「わ、いけない!それじゃ跡部さん、よろしくお願いしますねv」
「ああ」
「それじゃあ。行きましょ、アキラくん」
立ち竦む少年の腕を引っ張りながら、可愛らしい少女はエスカレーターを走るように降りていった。
「……」
「……」
「ほら、お前らも早くしろよ」
ぐったりした様子の宍戸と岳人を気に留めるでもなく、跡部はまた物色し始める。
デザインが最悪だな、だとか鍵付きとか意味わかんねぇ、だとか呟く友人の背中が遠い。
「なんか、凄かったな…」
「さすが橘妹…あの少年も気の毒に…」
「ごめーん、お兄ちゃん!途中で跡部さんに会っちゃって…」
「ほう、氷帝の跡部か。何か話したのか?」
「うん。胸の大きさだとか形だとか―――」
「わーわーわー!!!リーズムに乗るぜーーーッ!!!」
「ど、どうした神尾!急に叫んで…」
「い、いえ…なんでもありません橘さん…(杏ちゃん、なんてことを言うんだ…)」
「アキラくんたら、さっきからおかしいのよ」
「(ガーン)」
乙女は強かな生き物なのです。
勢いのみで書かれた駄文とは、まさにこのこと…
会話多すぎだ;
下着売り場で知人とバッタリ、ってのは結構恥ずかしいと私は思うのですが、皆さんはどうなんでしょう?
それよりも生理用品を買ってるところを見られる方が恥ずかしい気もする…(ギャッ)
おそらく今現在このサイト内で一番卑猥度が高いと思われるよ、この話(笑)(笑ってる場合ではない)
ちなみに、景ちゃんはぎりぎりB、亮ちゃんはジャストB、がっきゅんは寄せてC
そんな感じ。(貧乳好き)
2005.05.12 涼河
女体部屋TOP
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