・景吾と南の幼少期の話です。改めて確認!⇒この二人は従兄妹です!
・捏造キャラ、捏造設定満載です。










景に初めて会ったときのことは、今でもよく憶えている。

それは、梅雨が明けたばかりの、蒸し暑い日だった。




つい先日。9歳の誕生日に、テニスのラケットをプレゼントされてからというもの、おれはそれを振り回すのに夢中になっていた。
俄かコーチは、学生時代にテニスをやっていたという父親だ。
家の中だというのに、父子で素振りをしたりして。
母親はそんなおれ達を見て、にこにこと笑っていた。

その日は休日で、おれは父にテニスコートに連れて行ってもらいたかったのだが、残念なことに“家族の大事な用事”があった。
母のお兄さん、つまりはおれの伯父さんと、伯父さんの家族が、久しぶりにイギリスから日本に帰ってくるらしい。
だから、母の実家に挨拶に行くことになったのだ。

「健ちゃんは、お兄様たちと会うのは赤ちゃんの時以来ねぇ」

赤ちゃんのときの記憶なんて、あるわけがない。
だからおれと伯父さんたちは、初対面と言ってもいい。
母は嬉しそうだったが、父は少し緊張している様だった。

(行ったって、どうせつまらないんだろうな)

盛り上がる大人たちの横で、おれは所在無くお菓子を食べ続けるしかないのだろう。
“家族の大事な用事”が、“親戚付き合い”のときは、いつだってそうなのだから。
いつもより、おめかしもさせられて、窮屈だし。
こんなのだったら、テニスをしていた方が、何十倍も楽しい。
母の支度が終わっていないのを良いことに、おれはラケットを持って部屋を飛び出した。

「あっ、こら健太郎!服汚れるだろ!」
「だいじょーぶだよ」

並べられた余所行きの靴は、もちろん履かない。
いつもの運動靴を素早く履いて、庭に向かう。
思いっきりラケットを振ると、ひゅん、と気持ち良い音がした。
テレビで観た選手達みたいに、ボールを打てたらどんなに楽しいだろう。
早くあんな風に、テニスをしてみたいな。

おれは、ユウウツな気持ちを吹き飛ばすように、もう一度大きく素振りをした。






“親戚付き合い”があると、しみじみ思うことがある。
おれって実は、お金持ちの一族ってやつなんだなぁ、と。
普段は普通の一軒家に住んでいるし、生活自体近所の人たちと何ら変わらない。
母だって、そりゃ少しはおっとりしすぎなところがあるけれど、普通の母親だ。
けれど、この母の実家に来ると、何が何でも思い知らされる。

「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」

ずらりと並ぶメイドや執事や料理人。
揃って頭を下げられて、萎縮している父とは逆に(ちょっと情けない…)、母は慣れたもので、堂々と赤い絨毯の上を歩く。
本当の本当に、おれの母さんはお嬢様なのだ。

「お久しぶりです、健太郎お坊ちゃま。お元気そうで何よりでございます」

そしておれも、本当にお坊ちゃまなのだ…。
何度か会ったことのある、一番偉い感じの男の人に声を掛けられて、おれは小さく「はい」と応えた。

「お兄様たちは?もう帰ってらっしゃるの?」
「ええ。リビングでお待ちですよ」

執事に案内されて、リビングへ向かう。
その道すがら、頭を下げてすれ違っていく人たちの顔はみんな、嬉しそうな笑顔だった。
執事も判ったのだろう。小さく笑いながら、

「使用人たちは皆、旦那様とお嬢様が帰られたことが、嬉しくて仕方ないのです」

母も深く頷いて、二コリと笑った。

「そうね。お兄様が帰ってくるのは、本当に久々ですもの。私も嬉しいわ」

一際豪奢な扉の前で、執事の足が止まる。

「お入りくださいませ」

微かな音を立てて、開かれる扉。
食器が軽く擦れる音。
紅茶とお菓子の良い匂い。
おれたちに気付いて、ソファから立ち上がる人がいた。

「お兄様!お帰りなさい」
「ただいま。久しぶりだね」

勢いよく飛びついた母を抱きとめて、その人は笑った。

(がいこくじん、みたいだ)

確か、おれのおばあさんがイギリス人で、おじいさんは日本人だから、母と伯父さんはハーフということになる。
母はどちらかというと、日本人の顔に近い。
しかも、父親似のおれは、一応クオーターというやつなのだが、まるっきり日本顔だ。
だから信じてもらえないと思って、友達にはクオーターであることを言ってはいない。
一方、伯父さんはと言えば。
背が高くて、髪が栗色で、おまけに瞳が青かった。
すごくかっこいい。

「君も、久しぶり――健太郎君も」

父に視線を移してから、伯父さんがおれを見る。
名前を呼ばれたことに驚いて、固まってしまう。
挨拶を済ませた父が、おれの頭を撫でて、「ほら、ご挨拶は?」と促してくる。
どきどきしながら口を開いたと同時、背後の扉も開いた。
メイドがお辞儀をしながら、お嬢様がお戻りになりました、と告げた。

「おや、娘が戻ってきたようだ。そういえば健太郎君と景は、まだ会ったことが無かったね?」
「ええ」
「それじゃあ、健太郎君に紹介しよう!景、入っておいで」

メイドが道を空けると、女の子がひとり、リビングに入ってきた。
その子を見て、おれは間抜けもいいことに、ぽかんとしてしまった。
だって、すごくびっくりしたんだ。
人形が動いているのかと思った。
瞳の色は、伯父さんと同じ青だ。その上、とても大きくて綺麗。
きらきら輝く髪は、腰に届くほどの長さだった。伯父さんの栗色をもっと薄くして、金色を混ぜたみたいな色。
白いカチューシャに、水色のワンピースを着ているから、『不思議の国のアリス』みたい。
伯父さんの元まで来たその子は、スカートの裾を持ち上げて、緩く膝を曲げてみせた。

「叔父さま、叔母さま、ご無沙汰しております」

子供とは思えないような、しっかりとした挨拶。
父と母とは面識があるらしいその子は、最後におれを見て、少しだけ首を傾げた。
「誰?」と言いたげな視線に、心臓が跳ね上がる。
どどどうしよう。ちゃんと自己紹介しなくっちゃ。
でもどんな風にすればいいんだろう?
学年が上がるたびに、やらなければならないユウウツな自己紹介みたいに?名前と、誕生日と、それからそれから――

「はっ、はじめまして!南健太郎です!!誕生日は7月3日、A型、好きなたべものはコロッケ、好きなことは…!テ、テニスですっ!!」

一気に捲くし立てたおれに、4人分の視線が集中している。
…なんだかとても、恥ずかしいことを言ったんじゃないだろうか?おれ。
顔が熱い。
思わず俯いてしまったおれの視界に、白い手がすっと現れた。
その手はおれの手を掴み、少し強く握ってくる。

「え」
「テニスが好きなのか?健太郎」

笑いを堪える大人たちのなか、その子はおれの手を離さず言った。

「俺は跡部景吾。なぁ、健太郎、テニスしようぜ!」
「けいこ…?」
「け・い・ご、だ」
「ええっ!?男!!?そ、そういえば、今俺って…」
「男みたいな名前なのは、おじい様が跡取りに男の孫が欲しかったからって、つけられたんだ。こんな喋り方なのも、おじい様のせい。そんなことより、なぁ!」

繋いだ手を引っ張られ、おれは転びそうになるのを何とか耐えた。
景吾はさっきまでの落ち着いた態度が嘘みたいに、満面の笑顔で催促してくる。

「行くぞ!」
「あ、う、うん!」


それからおれと景吾は、太陽が沈むまでボールを追いかけた。
動きにくい服のまま、走りにくい靴のまま、ずっとずっと。








「こら、景。健太郎君たちはもう家に帰らないといけないんだ。手を離しなさい」
「……………やだ」

正直言えば、おれだってもっと景吾と遊びたい。でも、仕方ない。
景吾の手をそっと握り返して、おれは言った。

「また景吾が日本に帰ってきたら、必ず一緒にテニスしよう!」
「…」
「それまでにおれ、たくさん練習して、つよくなるよ」

ぶすっとした顔の景吾は、それでもかわいい。

「次は試合しようよ!」
「……うん」
「おれ、絶対負けないよ」
「俺だって、負けない」

繋がれたままの手を引かれて、なんだろう、と思ったら、景吾の顔が近づいてきて。
そしてほっぺたに、やわらかい感触。

「約束。忘れるなよ」

後ろで「きゃあ」と、母の嬉しそうな声が上がったけど、おれはもうそれどころじゃなかった。
キスされた!!ほっぺたにだけど。
びっくりするおれの目の前で、嬉しそうに景吾が笑った。















「なぁんてことも、あったよなぁ」

過去に意識を飛ばす景吾の手元には、開かれたアルバム。
綴られた写真には、あの頃の俺と景吾が写っている。
二人とも服がぐちゃぐちゃで、靴も砂まみれ。
それでも、これはとてもキラキラした思い出だ。
きっと、俺がこんなにもテニスに打ち込めたのは、景吾との約束があったから。
楽しいだけじゃ駄目だ。強くなりたい。いつか景吾と再会した時、胸をはっていられるように――。

「約束、まだ果たしてないな」

嬉しそうに笑う景吾の顔は、あの頃と同じ。
初めて会った瞬間から、俺の心を捕らえて離さないんだ。

「試合、今度してみようか?」
「ダブルスじゃなくて良いのか?地味ーズ」
「…けーいー」
「はは、冗談だって。楽しみにしてるぜ」


もし、試合に勝ったら、言ってみようか。


君がずっと好きだったんだ、って。






 





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まさしくごみ箱行きにふさわしい駄文orz

跡部家の跡取りは基本当主の第一子なので、景ちゃん(もしくはその夫)が跡取りになります。
おじい様は跡取りに男の子が欲しかったあまり、景ちゃんに男の名前を付けちゃったけど、かわいいかわいい孫を女の子としてめちゃくちゃ溺愛してます(笑)
でもその意に反して、男言葉を使いだし、しまいには髪もばっさりショートに…。

爺「景吾、お前のその言葉使いは、儂のせいなのか!?」
景「爺様に育てられたようなもんだから、爺様のせいと言えば、そうなるな」
爺「髪をそんなに短くしたのは何故だ?せっかくアリシア(※景吾のおばあ様)似の美しいハニーブロンドなのに…」
景「テニスするのに邪魔だから」
爺「…そうか(´・ω・`)」

そんな感じ。


2011.01.10 涼河