背の高い蒲公英 指先で掠めて

なだらかな道を往くよ

僕らはきっとまた この場所で出逢うだろう










春の追想

















(あ、ノゲシ。)








文学棟へと続く道の途中、側溝の傍に咲く黄色い花に気付いた。
大学部に入ってから、その鮮やかな色を見たのは初めてだった。

途端に思い出すのは、ちょうど一年前の春の情景。
高校に入り、三度目の桜を仰いでから少し後の季節。















高等部では、運動部の部室棟は、グラウンド横の坂の上にある。
夏になると深緑のトンネルが覆う、レンガの敷き詰められた坂道を、テニス部員たちは毎日のように登った。


そのレンガ道から外れて、木々の間を少し行けば、広がる視界に緩やかな斜面。

萌えるような旬春。

それは、立ち並ぶ校舎の内のひとつ、ほとんど使われない教室が集まる古い建物、その裏側。
手入れが行き届いてない芝生。

芥川慈郎という名の青年の、昼寝スポット。


ある日、彼はテニス部の仲間を、その場所へと導いた。


見慣れたはずの植物の、茎の異常な長さに感嘆する面々、

見れば、春色の髪を風に遊ばせて、
芥川慈郎は黄色と緑の波間に沈んでいた。



咲き誇る背の高い蒲公英のように、ふぅわりと。











後日、調べるという行為が意外に好きな青年が、
中学で切り落としてから伸ばすことを止めた髪の寝癖を気にしながら、
あっさりと呟いた。


「あの蒲公英に似たやつ、野芥子(のげし)っていうらしいぜ」


それはあたかも、今日の天気は曇りらしいとでも言っているかのようなノリで、
すぐに空気に溶けてしまったけれど。











(俺は、…否、俺たちは。今でも覚えてる)













蒲公英の化身であるような姿の青年が見せたビジョン、

広がる蒲公英―――に似た、野芥子という名の花。









芥川慈郎の名の一部を持つ、彼の姿を移した花。












あの頃のように、同じ場所で笑い合ってはいないけれど。










僕らは胸に秘めている






またあの場所で逢えると









(俺は待ってるよ)













背の高い蒲公英の咲く場所で。













今はまだ、思い出を振り返るには早いから。










歩き始めたそれぞれを、











春になれば、かならず想おう。








僕らはきっと辿り着くだろう。








坂道を駆け上がり、回り道を繰り返しながら。























(待ってるよ)













春に産まれ春に愛された青年が愛する、あの場所へ。
















































いつもとは違う文体にしてみました。
ジローの誕生日なので、ジロー以外の名前は出さないでみたり。

カッコ内の語りはジローですが、地の文は、ジローの想いでもありますし、他の帝っ子たちの想いでもあります。
(説明しなければわからないなんて…)
氷帝に大学があるとはいえ、皆がそこに行くとは限らないだろうなーと。
そりゃね、皆一緒だったら嬉しいけども!(笑)この話では、ジローだけが氷帝の大学です。
跡部は海外へ。忍足は医大へ。
宍戸は体育大学へ。岳人は工学部が有名な大学へ。滝は国文学の名門大学へ。
氷帝って名門ぽいから、どの学部もそこそこいい位置にありそうだけどね;

彼等なら、誰一人欠けることなく、再会を果せるでしょう。


野芥子はわりとどんなところにも咲いています。
私の見た野芥子は、蒲公英に本当によく似ていて、でも茎がびょーんと長かった。
私の住んでいたところでは5月によく見かけました。色んな種類があって、咲く時期も様々みたいですね〜
とにかくとりあえず、野芥子見つけたら、ジローを思い出してね!(笑)

2006.05.05 涼河


HAPPY BITHDAY!! JIRO AKUTAGAWA

More,more,become happy!


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