白い頬にこびり付いた泥の上に、雫がぽたりと落ちた。
それを親指の腹でそっと拭って、千石は一度瞳をきつく閉じる。
2滴、3滴。雫がまた、血の気の無い顔を濡らした。
「跡部くん…」
ゆるく閉じられた唇に己のそれを重ね合わせると、千石は冷凍保存カプセルの蓋を閉じた。
あっという間に、跡部の細い指先が、蜂蜜色の髪が――触れた唇が凍っていく。
「跡部くん、起きたらまずなんて言うかな?なんだこの薄汚れた服は!って怒るかな?はは、ありえるー。なんせ跡部くんだもんね」
「……ねぇ、跡部くん。それとも君は…」
それとも君は、俺の名を呼んでくれるだろうか?
一緒に凍りついた涙に、この想いが詰め込まれていればいいのに。
電子表示板に解凍年代と日時を設定して、千石はシェルターを足早に去った。
空は塵まみれの空気の所為で霞んで見える。
かつて青い空を遮った高層ビルは、瓦礫と化している。
爆音と共に、いくつもの悲鳴が聞える。
変わり果てた 僕らの住処。
「 」
ゴーグルをかけて、千石は黒煙の中に飛び込んだ。
ねぇ、跡部くん。
今はただ モノクロの世界で眠っていて
次に目覚める時は
君に 鮮烈な夕焼けのオレンジを
『The defrosting age was set up. 2999-11-25 16:00』
千石の誕生日に思いついたネタ(誕生日なのに暗)
小学生くらいの頃、冷凍保存されていた女の子が目覚めるところから物語が始まる、
というようなアニメを見たんですが、詳しいストーリーもタイトルもわからないんです…うーん…
細かいところは目をつぶる方向でお願いします(笑)
こういう話は千石視点が一番書きやすい気がします。
とにもかくにも、千石、誕生日おめでとう。
愛を込めて! 04.12.1 Misora.S