”全国出場が決まり 俺達は誰よりも喜んだ――――お前達青学に下剋上出来るんだからな!”
”そもそも全国大会(ここ)に居るべき学校は青学(おまえら)じゃない
俺等氷帝なんだよ!!”
俺達は負けた。 敗けた。
まけたんだ―――
顔を伝う汗が「これは紛うことなき現実だ」と嘲う。
くだらない夢だったらどんなにか良かっただろう。
全ての力を出し切った脚は、思うように動いてくれない。立っているのさえ辛いけれど、座り込んだらもう立ち上がれない気がした。
ベンチに腰を下ろしている榊は何も言わない。普段から饒舌な監督ではないが、今この沈黙が酷く重苦しくて、岳人は俯いた。
自身のプレーに納得はしている。それでもやはり「敗北」という事実が、心を曇らせるのだ。
「岳人。日吉。」
通る声音にはっとして顔を上げれば、鉄塔の下に座る跡部がこちらを見ていた。
冷静な表情そのものの彼は、一度二人から榊へと目を向けて、
「監督、よろしいですか」と言った。
「ああ。向日、日吉、行ってよし」
いつだったか、監督よりも跡部部長の前に立つ方が緊張する、と平部員が顔を赤くして騒いでいたのを岳人は思い出す。
普段はそんなことなどないが、こういう時はなるほど、確かにそうだ、と頷きたくなる。
座っているのは跡部の方だというのに、ひしひしと感じる威圧感。
喜怒哀楽のどれも浮かべていないと、その顔が本当に美しいのだと思い知らされる。
けれどロイヤルブルーの瞳は深く表情豊かに輝いて、引き込まれそうな力を有している。
「ごめん」
思わず、岳人の口から謝罪の言葉が洩れた。
何に対して謝っているのだろう?自分でもよくわからなかった。
ただ、「皆の期待に応えられなかった」「跡部の氷帝勝利への想いを台無しにした」、そう思った。
さっきから頭を垂れさせてばっかりだ。なんて情けない。
じゃり。俯いた先のシューズが少し動いて、音を立てた。
「岳人…そんな言葉、誰も聞きたがっちゃいないぜ」
「…だけど、」
「なぁ」
跡部の腕が伸びて、緩く握った拳が、岳人と日吉の左胸に当てられた。
「お前らは全力を出した。油断などしなかった。そうだろう?
それなら、」
拳に力が入る。いつの間にか、岳人は跡部と目を合わせていた。
「ココに誇れ!自分のテニスを誇れ!」
「跡部…」
「部長」
触れた場所から、跡部が岳人のことを、日吉のことを―――氷帝学園テニス部のことを誇らしく思う気持ちが伝わってくるようだ。
跡部は微かに微笑んで、二人から手を離した。
「そうだぜ岳人」
「若も」
宍戸が笑う。跡部と同じように拳をつくり、自分の心臓の上を軽く叩く。
その隣で、鳳も同じようにしていた。
「後は俺たちに任せとけって」
「絶対勝ってみせますよ!」
「なぁ、岳人。日吉。」
跡部の後ろに座る忍足も笑っている。強く、優しく、彼は言った。
右手の拳はその胸の上へ。
「馴れ合いなんてクソくらえと思うとったけどな…お前等となら悪うないわ。
……俺等はココで繋がっとるんや。お前等の試合中の想いも、今感じとる悔しさも。全部伝わっとる。
せやから、謝る必要なんて何もないで?それに、勝つのは―――どっちや?岳人」
「もちろん、氷帝だ!!」
「せやったら、ココで暗うなるのはおかしいで!な、樺地」
「ウス」
見れば、試合の準備を整えた樺地も、彼らと同じ仕種をしている。
いつものように転寝していたジローも、試合のデータを取っていた滝も。強く前を見据えた日吉も。
己を誇るように。仲間を誇るように。胸に拳を当てていた。
「跡部」
名を呼んで、岳人は自分の拳で胸をトン、と叩く。
跡部の腕が上がるのを待つ。それを察して、跡部も心臓に向けて拳を打った。
「勝つのは氷帝だろ?」
「当然だ」
こんなに誇らしい気持ちを、他に知らない。
テニスをやっていて良かった。
氷帝で良かった。
こいつらに出会えて良かった。
岳人は心の奥底から、おもいっきり笑ってみせた。
KNOCK THE CHEST!
向日岳人、お誕生日おめでとう!
全く誕生日ぽくはありませんが(笑)。
何が言いたいのか自分でも途中でわからなくなってしまった…
跡部はこんなに優しいこと言うかな、とちょっと悩みましたが(思っててもあえて言わなそう)、
繋がっちゃってる氷帝メンバーを書きたかったのでヨシとしよう!
胸を拳で叩く、という仕種は高校野球で選手の子がやっているのを見て、とてもかっこよかったので。
お手数ですがブラウザバックでお戻りください。
20050917 涼河