「―――天使」









Angel 3








鳳の声は茫然とも陶然ともとれる、不思議な声色だった。

戸口と祭壇、小さな礼拝堂とはいえ、お互いの距離はある程度離れている。
けれどその声は、確かに空気を振るわせて、跡部の耳に届き、天井に吸い込まれて消えていった。


たちまち自分の心臓が転がり始めたのを、鳳はどこかぼんやりとした中で感じた。
跡部の青い瞳が、鳳の言葉を受けて真ん丸くなったからだ。
彼のこんな表情は珍しい。けれど、感慨に浸る余裕は無い。

何をおかしなことを、と笑われるだろうか。

(だって、「天使」だなんて…普通、有り得ないよな…なんて事言っちゃったんだろう、俺)


だが、不安はすぐに掻き消された。








「――見えるのか?」






跡部はそう言った。
驚きに満ちた表情で鳳をしばし凝視し、やがて顔色を失い。

まさしく"神の創り賜いし"と形容するに相応しい跡部の顔が、色を落としていくのを目の当たりにし、鳳の胸がつきりと痛んだ。

「……っ」

先とは別の不安が全身を襲う。

決して見てはならぬものを、見てしまったような。



「長太郎」



静かに、けれど突き刺さる声で跡部が呼ぶ。
ハッと鳳は顔を上げた。
万華鏡の光の中、宵初めの空がひたとこちらを見据えている。
その背中には、やはり見事な純白の、


「…はね、が…。羽根が見えます」


跡部がほんの一瞬、眩しそうに目を眇めた。

「       」

「え?」

何事かを跡部が呟いたが、鳳は聞き取れずに首を傾げる。
だが跡部は、「なんでもない」と返し、また別のことを言った。


「お前はよほど、神に愛されているらしい」












それは神の恩恵か

あるいは無慈悲な真実か















to be continued




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