忍足クンと跡部クンの日常。@ 付き合ってるわけでも無いのに、イチャイチャバカップル全開なオーラを出す二人(本人たち自覚なし・あくまでお互い友人と思ってたりする)と、そんな彼らに悶絶したり肩入れしたりしちゃってる氷帝学園の生徒さんたちの、闘いと萌えの日々。なお話。 「けぇご」 甘く空気を振るわすバリトンに、クラス中の生徒全員が、肩をピクリと動かした。 朝も早よからダルッダルの、それこそパンの上に大量の蜂蜜をぶっ掛けてさらに砂糖を山盛りにし、チョコレートと生クリームをふんだんに垂らしたみたいな究極に甘ったるい感じで人の名を呼んだのは、忍足侑士である。 朝は和食・納豆派な男子生徒、安田は、舌にざりざりと残る砂糖の塊を感じて顔を顰めた(もちろん幻覚だ)。 「ん」 忍足の声に応えるのは、今だまどろみを漂わす、仄かに艶めいた吐息。 忍足侑士は歩を進める。 眠たげな表情で、跡部景吾が近づいてくる彼を待っている。 とろんと蕩けた、甘えるような目を隠そうともせずに。 そんな跡部の無防備な顔を見て、諦めの溜息を付いたのは、成瀬という少年だ。 「今日は一段と酷いな」 成瀬の台詞に、安田は机に突っ伏す。その肩に手を置いて、酒井少年は苦笑い。 「跡部、昨日遅くまで本を読んでたみたいだから」 「お前のその情報網、ほんとスゲーな…」 「新聞部にすっぱ抜けない(古)記事はないよ」 クスリ。不適に微笑む友人に慄く暇も無く、状況は刻一刻と動く。 忍足は跡部の元まで辿り着くと、相手の後ろ髪あたりを優しく梳いた。 気持ち良さそうに、貴種の猫の風貌で、跡部の目が閉じられる。 忍足が腰を屈める。座る跡部の顔に、忍足の顔が近づく。 覆い被さった体勢は、見る角度によっては、キスしているようにも見える。 「〜〜〜〜〜〜っ!!」 声にならない叫びを上げて、天野がのたうち回っている。 「天野」の出席番号は、「跡部」の次である。 間近も間近、真後ろの席で超絶美形同士の絡みを拝んでしまった。 乙女の心拍数は幾許か。 (事実は小説より奇なり…いや、美なりよっ!!!) この天野、最近夢中になっているのは、BL系小説を読むことだったりする。 薄い唇が、形の良い耳のすぐ傍で、何かを囁いた。 跡部の頭がことりと縦に動く。 何を言っているのかは、他の者にまで聞えてこない。 こないからこそ、妄想はムクムクと頭を擡げる。 今や、教室にある目全てが、忍足と跡部に向いていた。 女生徒のグループが、しきりに写メっている。 シャッター音は途絶えないが、本人たちの甘々オーラも途絶えない。 ふと、忍足がポケットに手を入れた。 長い指が取り出したのは、透明なフィルムに包まれた、可愛らしいピンク色のキャンディ。 くるくるっと器用にフィルムは剥がされて。 「あーん」 「あー…んむ」 「「「!!!!!!?」」」 やってくれたよこの人たち!!! ニュアンスの違いはあれど、クラスメイトの心が今、ひとつになった。 「旨いか?」 「ん」 「さよか」 でもなー飴ちゃんだけやったら足りんやろ?ちゃんと朝飯食わなあかんで? 忍足は、嗜めながらも、飴玉で膨らんだ跡部の白い頬を突付いている。 膨らみが右頬へ移動したら、指も右へ。左へ移れば、左へ。 跡部は少しうっとうしそうにしているが、満更でもなさそうだ(飴に夢中なだけかもしれない)。 忍足の方は楽しそうに、それでいて優しい眼差しで、つんつんし続けている。 「どうしてかな…普通だったら、とんでもない光景なのに。忍足と跡部がやってると、なんだか微笑ましく思えてくるんだ」 秀才メガネ・谷山の呟きに。彼の隣に座っていたヤンキー女・清が、 「わかるぜ」 と応えて、遠い目で微笑んだ。 納豆派・安田(♂) ニヒリスト・成瀬(♂) 新聞部・酒井(♂) BL読者・天野(♀) 秀才メガネ・谷山(♂) ヤンキー・清(♀) 以上今回のゲスト出演(多) 皆忍跡と同じ3Aの生徒さんです。 本当は拍手用だったけど、長くなりすぎたので没。 2006.07.21 涼河 STORY CONTENTS |