花火が終わった後に、その余韻を楽しむ暇なんてちっとも無くて。 ごったがえす人。人。人。 火薬とホコリと汗のにおい。 「足、痛むか?」 健太郎が気遣って訊いてきたが、答えなかった。 答えなかった、と言うより答えるのを忘れた。 「痛いなら…おぶろうか?」 「そうじゃねぇ。」 言ってから、乱暴に答えてしまったと気付く。 視界の端で、健太郎が困った顔をするのが見えた。 「いや、違うんだ、足は痛くない、大丈夫。ごめん。」 違うんだ。 痛いのは足じゃない。 * * * 花火が終わった時だ。 隣の方から声がした。 「えぇ花火やったわ〜。」 関東じゃ珍しい、関西弁。 ふと、関西弁のアイツ?忍足が思い出された。 「混まないうちに帰るで。」 次の瞬間、聞こえたのはその声だった。 聞き間違える筈がない、忍足の声。 「来年も来よかな。侑士、そのまま高等部あがるんやろ?」 「…好きにせぇ。」 忍足はすこし呆れたような口調でそう言った。 そんな忍足をこづいた女の人はとても美人で。 後ろでまとめた長くて黒い髪。 大人っぽく浴衣を着こなしていて。 忍足と「おにあい」だった。 その後、動き出した人の波に飲まれて、忍足を見失ってしまった。 忍足と一緒にいたのは誰だろう。 カノジョ? 忍足が誰と祭りに来ようが自分には関係ない。 でも、気になる。 そんなことばかりが頭をめぐった。 * * * 「どうかしたか?景。」 健太郎の声で、我にかえる。 「いや、なんでもない。」 そう、なんでもない。 ただ、忍足が奇麗な女の人と歩いていただけ。 「侑士」と、下の名前で呼ばれていただけ。 そう、それだけ。 なのに、どうしてこんなに胸が痛むんだ。 end. すいませんすいません気がついたら数ヶ月経ってるじゃねーですかコノヤロウ! 夏祭りネタなのに今って秋ですよ、秋!! タイムスリップして未来に、数ヶ月先に来てしまったに違いない、そう思い込んで日々を過ごしております。 「嗤う天」の跡部sideも書いたらどうだという皆様のオススメに従ってみました。 「嗤う天」本編の後のできごと、として書いてみました。 忍足姉弟と跡部+南がバッタリ会うのもアリだったんですが、それは本編を書く時に一番最初に考えた話で、 それ採用したら本編でそれを不採用にした意味が無くなるので(笑)、やめました。 ただそのせいで、本編との違いが見られなかったのは残念です。悔しい! ま、忍足も跡部様も勝手に早とちりしてズキズキしているのはフィフティフィフティで良いかと思います。 っつーコトにしておきます。 こんな時だけ調子良く痛みを分け合わせる裏方Fでございます。 ジャンピング土下座しながらバィバィキン★ 06/09/14 裏方F(ふうた) |