★ ROUND1:夢か現か ★




土曜の午後。
駅前のファーストフード店。
とくれば、学生で賑わう光景が日常だ。

多種雑多な制服が溢れる中、氷帝学園のブレザーを着た三人組みが、入り口から死角になっているボックス席を陣取っていた。

「やっぱ氷帝は女子のレベル高ぇよな〜」

などという周囲からの賛美を貰いつつ、彼女たちは深刻な顔をしてテーブルを囲んでいる。
小柄な少女が、ワインレッドの髪を耳に掛けながら、オズオズとナゲットを口に運んだ。
それをなんとはなしに見つめる髪の長い少女は、さっきからポテトを指先でクルクルと回すだけで、食べようとはしない。

「…どうすんの」

沈黙に耐え切れなくなった小柄な少女――向日岳人が、少しだけ齧ったナゲットを容器に戻して、ボソリと呟いた。

ヒクリ。

死角のボックス席の、さらに奥の死角に座る少女の口元が引き攣った。
美しい形の唇は歪んでも尚優雅に、彼女の苦悩を表現している。
とたん、髪の長い少女が盛大なため息を吐いた。

「っっだー!お前はどうしてそう意地っ張りなんだ!!」
「亮だけには言われたくねぇ」
「んだと!?」

亮、と呼ばれた少女がポテトで隣の美少女の鼻先をビシリと指した。

「お前な!心配してやってんのになんだそれ!?」
「亮、ポテトで人を指すのやめろって…景も。ほんとどうすんの?明日」



「彼氏いないのにいるとか言っちゃって」
「嘘だってバレバレだしな。あーあ。ますます調子に乗るぞ、忍足の奴」
「年貢の納め時なんじゃない?」
「諦めて付き合っちまえば」



「い・や・だ!!!」



友人二人の非情な言葉攻めを振り切って、跡部景吾は勢い良く立ち上がった。

「お前らだって知ってるだろ!?アイツがすっげー遊び人だって。俺にちょっかい出してくるのだって、からかってるだけなんだよ!」

((そうか…?))

二人は常日頃の忍足の猛烈アタックぶりを思い浮かべて首を傾げたが、跡部があまりにも鬼気迫った顔をしていたので押し黙っておいた。

「クソ、今からでも逆ナンして…明日だけ付き合わせて捨てるか!?」
「いや、アナタ、それはシャレになんないですから…」

跡部なんかに声を掛けられてみろ。
ソイツはたちまち本気になって、いつまでもまとわりついてくるぞ!
容易に描ける未来予想図に、ため息が二つ重なる。

「やっぱ正直に言うしか…」

岳人が仁王立ちをする跡部を見上げながら言いかけたところで、いきなり跡部の青海の瞳がクワッと見開かれた。

「ひぃっ!」

地雷を踏んでしまったか!?
仰け反って椅子の背と仲良くなっている岳人を尻目に、跡部は勢い良くレジへ走り出した。

「へっ?」
「景!?」


見れば彼女は、制服オンパレードの中でも殊更目立つ白い学ランに身を包んだ少年に話しかけていた。

「あれって山吹だよな」
「うん…あ、こっち来た」

白ランの腕を掴んだまま、跡部が戻ってくる。
その瞳はキラキラと…否、ギラギラと光を放っていた。
連れてこられた少年は、当然ながら困惑顔だ。
むしろ、跡部以外がバッドステータス:混乱、だ。
ちょっとした沈黙の空間を、『シェイクが今なら半額☆』スピーカーから流れる異様に元気のいいお姉さんの声が通り過ぎていった。

「岳人、亮」
「う、うん?」
「何?」
「コレ」

コレ、と言われた少年が、跡部に押されて「うお」と声を上げながらテーブルに近づいた。

「俺のイトコ。の、南」

「はっ!?ま、マジで?」

嘘とかじゃなくて?
そんな感じの目線を二人は南少年に向ける。
すると少年は、ちょっとたじろぎながらも笑みを浮かべて、

「景…跡部のイトコの、南健太郎です」

と挨拶した。
ニヤリと笑う跡部。

「どうよ?なかなかカッコイイだろ?」
「「確かに」」

コクリと頷く二つの頭。
髪の毛がツンツンと立っているところは、さすが不良校・山吹の生徒といったところか(偏見)。






「そんなわけで!コイツに彼氏のフリをしてもらう!!!」




どんなわけだよ?





岳人と宍戸のツッコミは、南の素っ頓狂な悲鳴にそれぞれの喉元を下がっていった。





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やっとこさ始動、女体話。
女の子同士は苗字で呼び合うより名前でだよね!ということで、名前で呼び合っております。

私達以外で誰か萌えてくれるのでしょうか?南と跡部イトコ設定(笑)
ちなみに、跡部の父と南の母が兄妹です。

さー!もっさり行きますぞ!!