★ ROUND10:(自称)恋のストライカー、千石清純参上。 ★



氷帝学園の校門を出てから、景の眉間にはずっと皺が刻まれている。
やっぱり、何の連絡もなしに来たのはまずかったのだろうかと心配になって、俺は景に尋ねてみた。

「何か用事とかあったんじゃないのか?」

考え事をしていたらしい彼女は、俺の声にハッとして、顔を上げた。
驚いた大きな瞳がさらに大きく見開かれて、普段よりも幼く見える。その表情が凄く可愛くて。
従兄弟だから小さい頃から知っているというのに、心臓がドキドキいいだす。
まったく、こいつは犯罪もんだ。そりゃ氷帝の男子達も必死になるって。

「そうじゃないんだ…悪い」
「いいって。じゃ、なんでさっきからそんな顔してんだよ?」

俺が足を止めたから、景も立ち止まった。
頭一つ分小さいところにある眉間を、軽く突付いてやる。
すると景はいささか顔色を悪くして、また眉間に皺を寄せながら小さく言った。

「ジローに、多分、俺たちが付き合ってるってのは嘘だってバレた…忍足にバレるのも時間の問題だ…」

その言葉に、俺も焦った。だって、やっぱりそれは俺の所為だし、何より…
忍足君にバレるってことは、俺たちの『恋人のフリ』もする必要がなくなるわけで…
実はずっと景の事が好きだった俺は、マックで景に恋人のフリをしてくれ、って頼まれたとき、メチャクチャ嬉しかったんだ。
フリ≠チてところに、胸が痛んだのも確かだけれど。

「景…」
「うっそ!!?」

何か言おうと口を開いたとき、突然、少し離れた曲がり角から大声が響いた。

「あっ!!」

忘れてた…!俺が今日ここに来たのは、こいつの所為だったんだ。



★★★



「最近さ、南ぼーっとしてない?」
「そうか?」

なんだ、自分で気付いてないのか。さっすが南。
よし、ここはひとつこのラッキー千石が(南で)遊んであげよう!

「カノジョでもできた?」

ニンマリ顔で南を覗き込む。
いつもならここで不機嫌な顔して、「どうせ俺はモテないよ」って拗ねるんだよね。で、「女の子紹介してあげよっか?」って言うと「だから、お前の知り合いは派手なのばっかでヤダっつってんだろ」ってものすごい嫌そうに言うわけ。
でも俺はそれだけが理由じゃないって思ってる。南には、多分好きな娘がいるんだ。
だから今回は「カノジョでもできた?」の後、南が何か言う前に、「やっと片想いだった娘のハートでもゲットした?」ってふざけて言ったら…

「ちょっと何、その顔は南!!」
「う、うるさい!!」

真っ赤になってるよ!?え、何、俺地雷踏んじゃった?核爆のスイッチ押しちゃった!?まさか、まさか本当に、

「本命と付き合うことになった!?」
「う…えーと……」

何故かちょっと複雑そうな顔でどもる南はほっておく。これは大ニュースだ!!あの超鈍感・超奥手の南が初恋(と勝手に解釈)を実らせた!
皆に言いふらさなければ!それにしても、地味ーズ南と付き合うくらいだし、相手の娘もよっぽど…

「お前今、“南と付き合う娘だから、地味なんだろうなー”とか考えてるだろ…」

う!こんな時だけ鋭い!

「いっとくけど、地味じゃないからな」
「え?そうなの?でもさー、南の基準でしょ、それは。うちの女子じゃないよな?そんなそぶり無いし。こりゃもうさっそく今日、南ちゃんのカノジョを見に行かないとねぇ〜」
「は!?何言ってんだよ、絶対行かねぇし!」
「あ、やっぱ相当地味なんだーふーん、そうかー」
「…!!会わせてやろうじゃねぇか!惚れんじゃねーぞこの馬鹿!」

単純だなぁ。ああ面白!

「ま、安心しなよ南。南が好きになるようなタイプの娘を本気で好きになったりはしないって。もちろん世の中の女の子はみぃ〜んな大好きだけどね!」
そう言うと今度は不安そうな顔をした。まるで百面相だ。

「何?一目見たら誰でも恋しちゃうくらいとびっきり可愛い娘なわけ?」

冗談で言ったのに、南からは何の反応もなかった。どうやら本当にそう思ってるらしい。
おいおいおい!どんだけその娘にゾッコンなんだよブチョーさん!!



★★★



そんなわけで、もちろん他のテニス部のメンバーも誘って、南のカノジョの学校の近くまで来たわけだけど…

「ひょーてーがくえん…!!?」
「規模も学力も女子のレベルでさえも都内一の、氷帝学園!!」

皆して呆然と、都心にあるとは思えない壮大な校舎を遠目に見つめる。

「いきなりこんな人数で押しかけても迷惑だし、お前らはちょっと離れたとこで待っててくれ」
「了解〜…そこの曲がり角のとこで待機してるよ…」

なんだか打ちのめされて返事をして、南の悔しくも堂々たる背中を見送った。

「地味ーズ南のくせに氷帝の女子がカノジョ…おかしい…ありえない…」

俺だってまだ氷帝の娘とは付き合ったこと無いのに!
これは現実ですかロマンスの神様!

「そうですか?充分ありえると思いますよ」
「むろまっちー…」
「…その呼び方はよしてください。だって、南部長って、背も高いし、顔もいいし、テニスも全国レベルだし?」
「そうそう。部長の仕事も真面目にやってるし、優しいですし。」

室町クンに続いて喜多クンまでそんな事を言い出す。南ってそんなふうに見られてんの!?

「スポーツ推薦で山吹に入ったからといって勉強をおろそかにしたくないって、テストでもいつも成績優秀者に入ってるし」

東方…それは知ってたけどさぁ…いや、顔がいいってのも認めるけど。

「多分、南部長のこと本気で地味とか言ってんの、千石さんだけですよ」
「えぇ!?皆そう思ってないの!?」

うんうん、と頷く面々。

「地味ーズであることは認めるけどね!テニススタイルは目立たないから。っつーか地味ーズの地味オーラは八割方東方から出てるけど」
「おいこら新渡米!地味っていうな!」
「あっ!!せ、千石…南たちが近づいて来た…ふ、ふわわわ…」

調査調査!と言って、壁から顔を出して校門の方を伺っていた錦織が、ヘンな声を出しながら俺のほうに振り返った。

「みなみハとおイくにノおうじさまニなったヨ」
「しっかりしろニッキーー!!傷は浅いぞ…!救急班を、誰か救急班を呼べ!」
「どれどれ?」

遊んでる錦織と新渡米はスルーして、俺もそっと壁の向こうの道を覗いた。
最初に見えたのは、立ち止まってこっちに背を向けている南の姿。そして目に入ってきた、南の向こうの、カノジョ。


長身の南と並んでもバランスのとれている、スレンダーな身体。白い脚に短い水色チェックのスカートがなんだか色っぽい。さらさらしてそうな、綺麗な金茶の髪はショートカットだ。
そして、小さい顔は、恐ろしく美しかった。
ブルーグレイの瞳、意志の強そうなやや吊り上った細い眉、小さな口。全てのパーツが完璧だ。加えて、目元の泣き黒子。
こ、これが…南の…?

「うっそ!!?」

思わず俺は叫んでいた。天使だよ!?南のカノジョは天使だったよ…!!



★★★



「あーえっと、俺のカノジョ…の、跡部景吾。で、景、こっちは、テニス部の仲間の奴等。あんま近寄んな。馬鹿が移るから。特にこのオレンジ頭。」
「ひっどいなー、南!俺、千石清純っていうんだ☆よろしくね、跡部サン」

俺はさっそく復活して、跡部サンとお話してるけど、他の奴はまだ呆然と跡部サンを見てる。
そりゃそうだ。だってスーパーウルトラ美人だもんなー。こんな美人、テレビや雑誌でもめったにお目にかかれない。しかもそんな娘が自分のよく知る奴のカノジョ。ビックリだよねぇ。

「どーも」

…ん?

「景、ごめんな。見世物みたいにしちゃって」
「かまわねぇよ。っつーか、俺様の美貌に酔いな!って感じだろ!」

んんー?……俺様=Hかまわねぇ=Hだろ=H

「はいはい…」

南の様子からして、どうやらいつもの事みたいだ。この顔で、この口調?うっわ、どうしよう。凄い好みだ…!最高!(他の奴はもちろんフリーズしてるけど)


きーめた…


ごめんね、南。親友だけど、それとこれとは違うから。好きになっちゃったもんはしょうがないから。
千石清純、本気で君の恋人にアタックさせていただきます!!







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千石登場!
そして南の本心が見えてきましたね。
ますますこんがらがっていく予感…
ちょっと長くなってしまいました(反省)

2005.02.18