★ ROUND6:追いかけっこ! ★


ジローと忍足と跡部による壮絶な鬼ごっこは、昼休みになっても尚続いていた。
(さすがに跡部は授業はマジメに受けたのだが)
跡部の長い脚が前後する度に、短いスカートがヒラヒラとせわしなく動いる。
その際どい様子に、男子達の視線が集まっているのにも気付かずに(あるいは気付いていても気にしていないだけかもしれないが)、跡部は全速力でカフェテリ アを走り抜けていく。
鳳と現場に居合わせた宍戸は、行儀悪く机に頬杖をつきながら傍観を決め込んだ。
跡部が通る通路側に座っていたため、彼女が起こした風に宍戸の長い黒髪が揺れた。
宍戸と同じ通路に座っていた者達の、

「めっちゃいい匂い来た!!」
「跡部さんの残り香〜…」

というちょっと変態的なざわめきを耳に入れつつ、髪を手櫛で整えて、宍戸は呆れたように目を細めた。

「で?どういった理由で、忍足まで、跡部に、追いかけられてるわけ?」

一つ一つ区切るように言う宍戸に、目の前に座ってコーヒーを飲んでいた鳳が苦笑する。
確か最初は、ジローだけが跡部に追いかけられていたはずだが…

「忍足先輩も初めはジロー先輩を追いかけていたらしいんですけど…途中で何を思ったか跡部さんを捕まえて、公衆の面前で思いっきり抱きしめたあげく、“好 きや…”とか耳元で囁いて………えーと…」

言い淀む鳳を一睨み。

「……わかりました、言いますよ…!…暴れる跡部さんを壁に押さえつけて、む、無理矢理…キ、ス…しようとしたらしいです…」

これ、もう全校に広まってる頃かもしれません…
とんでもない内容と最後に呟いた鳳の一言に、宍戸は眩暈を感じた。

「うわぁ、キツ…」

天を仰いで走り続けているであろう親友に同情する。
が、まぁ自分は止めにいかなくても平気だろう、と宍戸は首を正面に戻した。
もう一人の友達想いの親友が、あれで面倒見が意外といいから、そのうち連れてくるはずだ。

「なにもかも氷帝の天才忍足侑士サマの思う壺〜ってか…」
「?どういうことですか?」

まだわかんねぇのかよ、とため息をついて、宍戸は鳳の前に置かれた紙コップを奪い取って、中身のコーヒーを一気に飲み干した。

「あ!宍戸さん…それ…」
「げ、苦っ!!」

宍戸はブラックが苦手だ。宍戸といる時は、たまにこうやって鳳の飲み物から一口もらったりすることがあるから(今のは一口とはとても言えないが)、鳳は必 ず砂糖入りを選ぶのだが。

「すみません…うっかりブラックのボタン押しちゃったんです」

いつもならここで“激ダサ!”とのお言葉を頂くとともにゲンコツも降ってくるはずが、宍戸は眉を寄せただけで何も言ってこなかった。

(跡部に比べたら、俺ってカレシに恵まれてるよな・・・)

背が高い・顔がいい・金持ち。おまけに頭も良くてテニスも強い。そんな男をゲットしておいて、恵まれてるも何もないだろうがよ!と世の中の女に妬まれそう な事を考える宍戸。

「あの…?宍戸さん?」
「あ?ああ…別にいいぜ。今回は許してやる」
「宍戸さぁ〜〜んvv」
「こんなとこで手を握るな!…そ、そうだよ!忍足の思う壺だって話だよ!」

振り払われた手を見つめてしゅんとする鳳に構うことなく、宍戸が遠い目をする。

「忍足の奴…跡部が他の男追いかけてるのが気に入んなかったんだろうな。今頃あいつは好きな子に追いかけられて、至福の極みだろうよ…」

「…」
「…」

しん、と静まり返る二人の周りの空気。





「常々思ってたんですけど…忍足先輩って…アブナイ人っすね…」

「だな…」





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校内で走ってはいけません!(笑)
少しばかりいちゃいちゃしてる鳳宍。
鳳は優しい子だから宍戸さんの為に砂糖入りコーヒーを買うそうですよ。
これが黒チョタだったら、苦いって顔する宍戸さんを見て喜んでそうですよね…
ねぇ?ほら、苦いって、ねぇ?…ゲフン!(教育的指導!)
もうしばし氷帝サイド。

2005.1.18