★ ROUND8:教師公認・氷帝レンアイ方程式 ★





キーンコーンカーンコーン・・・・



5時間目終了のチャイム。いつもと同じ、録音されたものが自動的に鳴っているだけなのに。
跡部には、それがまるで試合開始を告げるゴングのように聞こえた。
授業の合間の休み時間も、昼休みもまんまとジローと忍足に逃げられたのだ。今日中に奴らを捕まえてたっぷりと説教をしてやらねば気が済まない。速攻でシャーペンをペンケースに入れて、机の中身を鞄に突っ込むと、ホームルームを始めようと教室に入ってきた担任に向かって叫ぶように挨拶をする。

「先生!また授業をサボった芥川君を発見したので、姿をくらまさないうちに捕獲してきます!」

言うが早いか駆け出した跡部の背中に向かって担任が声をかけた。

「よろしく頼むぞ跡部!ホームルームは出席扱いにしといてやるからな」

のんびり答える担任や、「いってらっしゃ〜い」と手を振るクラスメイト達の姿は、慣れたものである。



(跡部にとっての)戦いが、再び、幕を開けようとしていた―――





「俺には、チャイムが俺と景ちゃんの結婚を祝う教会の鐘の音に聞こえるわ〜」

一方、忍足のクラスでは数学の授業が延びていた。

「こらー、忍足ーまだ授業は終わって無いぞー独り言は後で言えー」

(((独り言の内容にはつっこまないんですかセンセー!!!)))

フリーズして声の出せない生徒たちの心の訴えは、数学教師竹下静馬(39)には届かなかった。
忍足は竹下先生に向けてへらりと笑うと、スンマセン、と謝る。
早くしないと出遅れる。多少イライラしながら、中庭の一番大きい木の根元(授業中に見つけたジローの居場所だ)に目を向けると。
ジローはまだそこで惰眠をむさぼっていた。そして、中庭に飛び込んできた頭がひとつ。

蜂蜜色の髪が走るのに合わせて、ふわふわと靡いている――跡部だ。

「あかん!景ちゃんがジローと結婚式あげてまう!」

動転してわけがわからないことを叫びながら、忍足は机の横の鞄を引っ掴んだ。
今日の授業はこれで終わりだ。急いで中身を詰め込んで立ち上がる。

「先生!俺なんや腹が痛いんで帰ります!ほな!」
「忍足ーそんな見え透いた嘘つくなーあいつらはまだ結婚できる歳じゃないから安心して授業を受けろー」

(((そんなにこやかに言われても!)))

脱力して声も出せない生徒たちの心の訴えは、数学教師竹下静馬(39)にはやっぱり届かなかった。

「いいえ、先生。そういう問題と違います。今二人を止めへんと・・・俺は居ても立ってもおられへんのです」

芝居がかった顔で言った忍足は、そこではたと気付いたように黒板を指差した。

「先生、その最後の問題。tanθから求めるより底辺を二乗で4という数字をだしてそれをcosθにあてはめて解を出したほうがよっぽど早いですよ?」

ん?と振り返って黒板を見る竹下先生。その隙をついて、忍足は廊下へ飛び出した。

「おお。本当だなーさすが忍足・・・・お?忍足は逃げたかーそうかー」

(((センセー・・・!!!)))

溢れ出すやるせなさに声も出ない生徒たちの心の訴えは、数学教師竹下静馬(39)にはやっぱりきっぱり届かなかった。







「ジロー!!」
「あ〜あとべ〜早かったねぇ」

軽く息切れをしていた跡部はにっこりと笑うジローを睨みつけたが、やはりというか、効果はない。欠伸をしてうーん、と伸びをする姿を見ていたら、急に怒りも消え去ってしまった。

結局毎回こうなのだ。呆れたため息を吐き出して、跡部はジローに持って来ていた彼の鞄を思いっきり投げつけた。

「おわっ・・・ぶなー・・・」
「おら、帰るぞ!」
「もう怒ってないの?」
「追いかけんの疲れたから、もうやめた。次はないからな!覚えとけよ!」



ああ、何度君はそう言ったことか・・・
本当に、この美しい幼馴染は、自分に甘い。
ジローは微かに苦笑を漏らした。

「えへへ〜大好き、あとべ」
「あーはいはい・・・」

本気にしてない顔。

いつか絶対――振り向かせてみせる。そのためにはまず・・・

「跡部!!」
「忍足・・・」

(邪魔者を、消さないとね・・・)

「俺も一緒に帰ってもええ?」

走ってきたことなど微塵も感じさせない完璧な笑顔で、忍足は告げた。
対する跡部は、眉間にこれでもか、というほど深い皺を刻んでいる。

「そんな顔せんと」

するり、とどこまでも自然な動きで腕を動かし、跡部の小さな顔を手のひらで包み込もうとする。

(絶・対・阻止!!)

ジローは意気込んで跡部の腕を引っ張った。

「あとべ!早く帰ろ!ワンピース(再放送)が始まるよ!今日はチョッパー大活躍の回だよ!」
「何!?お、おい、急げジロー!忍足!」

小走りに校門へと向かう跡部。

「・・・なんでそこで忍足も呼ぶかな・・・」
「なんや、お前ら・・・まさか毎日お互いの家行き来しとるんとちゃうやろな・・・?」
がっくりと項垂れるジローに、忍足の鋭い視線と、跡部の急き立てる声が圧し掛かる。

「毎日ではないけどねー・・・たまに」
「あ」
「あ?」

突然声を発したかと思うと、忍足は絶句したように校門を見つめていた。

「忍足?」

悔しそうに、黒い瞳が歪む。長い腕が、やけに緩慢とした動作で持ち上がって、やがて指先が一点を捉えて止まった。

「見ろや、ジロー。跡部の・・・・・・カレシが来とる」

「え・・・」





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やっとこさ南再登場か!?(笑)

2005.02.02